「オペラの演奏習慣は、過去の色々な人が検討してきた歴史の蓄積なのです。そうした歴史が生まれる瞬間をミュージカルで経験していることは、オペラ作りにも生かされています。」

指揮者の濱本広洋さんにインタビュー企画第二回。
劇団四季と新国立劇場、ミュージカルとオペラの二つの現場で活躍されるなかで見えてきた両ジャンルの相違についてお話を伺いました。
(聞き手/編集:安田ひとみ)

 

濱本広洋(指揮者)

撮影:奥山茂亮

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安田: 濱本さんはオペラだけではなく、「劇団四季」でミュージカルにも携わっていますよね。劇団四季に携わるきっかけはなんだったのでしょうか?

 

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オーディションを受けるにあたって、勉強もかねて、時任先生が指揮をしていた『ライオンキング』を観に行き、とても衝撃を受けたのを鮮明に覚えています。
生まれて初めて生で観たミュージカルが、その時の劇団四季の『ライオンキング』でした。

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安田: 初めて生でミュージカルを観劇した感想はどうでしたか?

 

濱本: もう最初の「サークル・オブ・ライフ」で大号泣してしまいました。
「ミュージカルでも指揮者として携わりたい」と考える隙間もなく、ただただ凄いと圧倒され、感動していました。その後の『ウィキッド』のオーディションのために本番公演を見学するたびにも号泣していましたね。最初は一番有名であろうナンバー「自由を求めて」で号泣、「魔女が迫る~この幸せ」でもおいおい泣いていました。

 

安田: 「幸せだわ~」と言葉では歌っているけれども、グリンダが心から幸せだと感じていなさそうなのが、胸に来ますよね。

 

濱本: あと、最後のエルフィーとグリンダのデュエットも感動的ですね。観る回数を重ねると、カーテンコールでも涙が溢れるようになりました。エルフィーとグリンダが楽しそうに笑い合っている姿や、ネッサローズとボックが幸せそうな姿に、こういう世界線もあったのではと泣けてきますね。

 

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濱本: 指揮したことのある演目は、観ると仕事モードになるからか、全く泣けなくなるのですが、『ウィキッド』はまだ振ったことがないので、いつ観ても泣けます。

 

安田: そろそろ『ウィキッド』を生オーケストラ付きで再演して欲しいですね…
「振ったことがない」ということは、オーディションは残念ながら落ちてしまったのですね。その後はどうだったのでしょうか?

 

濱本: その後、劇団四季からは『ウェストサイド物語』、『サウンド・オブ・ミュージック』のお仕事の依頼を受けるようになりました。『ウェストサイド物語』は、スケジュールの関係で、申し訳ないのですが当時はお断りしました。 その後に誘われた『サウンド・オブ・ミュージック』で劇団四季での指揮者デビューをしました。

 

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安田: 2017年KAATでの劇団四季『オペラ座の怪人』は100公演ほど振ったそうですね。二つのジャンルをまたいで活躍されるなかで見えてきた「オペラ」と「ミュージカル」との相違点についてお聞きしたいです。

 

濱本: ジャンルとして考えると、舞台の上で生身の人間が歌い演じるという点で二つは同じものだと思っています。今でもそれぞれ作品は作られ続けていますが、映画が生まれる前は、オペラが技術や費用をつぎ込んだ娯楽の王様だったのです。現在流行ってる大ヒットミュージカルが50年後、100年後まで残ったら、今のオペラのように古典の名作として位置づけられているかも知れませんね。

 

安田: 違いをあげるとしたら、なんでしょうか?

 

濱本: 分かりやすい違いは、ダンスのあり方、音響機材のあり方、舞台転換です。
オペラでは歌手が踊ることは稀ですが、ミュージカルでは歌手も踊らなくてはいけないことが多いです。根本的に、オペラの表現は歌唱の音楽的内容に支えられています。対してミュージカルは、作品によって歌とダンスの比重が違いますが、かなりダンスに表現が現れています。例えば、『ウェスト・サイド物語』はみんな歌って踊らないと成り立たないではないですか?ミュージカルの踊りには、しばしばラブシーンやら戦いやら、踊り以上の意味が含まれています。バレエと同じなんですよ。
しかし、オペラはそれをすべて歌、音楽で表現します。バレエやミュージカルでダンスが表現する心情表現などをオペラは音楽と歌で表現しています。「ダンス」の意味作用が異なるのです。

 

安田: 音響に関してはどうですか?

 

濱本: ミュージカルでは基本的にキャストとオーケストラはマイクを付けて音響調整されています。基本的にと言及したのは、稀にオフマイクでの表現もあり得るからです。例えば、『ウェスト・サイド物語』の序曲の「マンボ」はオーケストラが叫ぶのでオフマイクです。ミュージカルでは、ちょっとした台詞などをアドリブで言うことがよくありますよね。最前列なんかだとよく聞こえて楽しいですよ。反してオペラは基本的には全て生音です。

 

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濱本: ミュージカルとオペラの関係性は映画と演劇の関係に似ているのです。ミュージカルは舞台転換なども速いですし、さまざまなシーンやカットをかわるがわる入れ換えられるように制作されています。場面転換のスピード感が速いんです。そのあたりがオペラとの大きな違いですね。

 

安田: 演出についてはどうですか?

 

濱本: オペラはプロダクションの縛りがないので、世界中でひとつの演目が様々に上演されていますが、ミュージカルはプロダクションごとに世界を回っています。
ミュージカルは、初演の際にオリジナルキャストと共に時間をかけて演出プランを練り上げています。

 

安田: 『ライオンキング』や『オペラ座の怪人』はニューヨークで観てもロンドンで観ても日本で観ても基本的に同じですよね。古典的な作品はどうでしょう?

 

濱本: 『サウンド・オブ・ミュージック』などは色々な演出で上演されていますが、今あるミュージカルのヒット作がいずれオペラのようにいろいろな演出で見られるようになったら面白いと思います。

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安田: ミュージカルとオペラを制作する過程で、似ていると感じた点はありますか?

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濱本: ミュージカルの現場では、演出の都合で音の長さが変わったり、演出方針の変化で今までとは違うテンポを採用する場面に立ち会いました。それは、いままでのオペラの歴史でよくあったことです。オペラの演奏習慣は、過去の色々な人が検討してきた歴史の蓄積なのです。そうした歴史が生まれる瞬間を、ミュージカルで経験していることは、オペラ作りにも生かされています。オペラの慣習がどうやってできたか想像できるようになりましたし、まっさらな楽譜を見て考えることもできるようになりました。

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安田:第二回本公演 歌劇≪リゴレット≫は満員のお客様に囲まれ、大熱演のもと終演いたしました。
最後に、『リゴレット』という作品の主眼はどこにあると濱本さんは考えているか、お話しください。

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濱本: ミュージカルは基本ハッピーエンドですが、オペラはよく人が死にます。『リゴレット』については、語るべきポイントはたくさんあります。ひとつあげるとすれば、ジルダがどのような形で死を選ぶかが重要だと思います。リゴレットとマントヴァ公爵の関係の結果、ジルダはあのような死を選んでしまった。「どう死ぬか」を描くことが「どう生きたか」の答えになっているのです。

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第二回本公演 歌劇《リゴレット》より
リゴレット: 伊藤薫 ジルダ: 小原明実 / 撮影: 伊藤大地